
Docker Desktop を起動するたびに、タスクマネージャーの「vmmem」プロセスが数GBのメモリを消費しているのを見て、もう少し軽い選択肢はないかと思ったことはないでしょうか。
Microsoft Build 2026で発表され、6月末からパブリックプレビューとして提供されていた「WSL Containers(wslc)」は、2026年9月29日(現地時間)に正式版(GA)になったWSLのコンテナ実行環境です。Docker Desktopの代替として注目されていますが、「実際のところどれだけ軽いのか」という疑問に対して、数値で検証した記事はまだ少ない状況です。
この記事では、wslc 2.9.3.0(プレビュー期のプレリリース版)と Docker Desktop(最新版)を同一環境で並べ、アイドル時のメモリ消費とコンテナ起動速度を PowerShell 7 で計測した実測データをもとに比較します。wslcの強みと限界を把握した上で、移行の判断材料にしてください。
※計測はプレビュー期(2.9.3.0)の結果で、正式版(3.0.1)での再計測は行っていません。正式版の概要と更新手順は 【WSL 3.0】WSL2との違いと導入手順|正式版コンテナの使い方 をご覧ください。
この記事でわかること
- wslc と Docker Desktop のアイドル時メモリ消費の実測差
- hello-world・ubuntu コンテナの起動速度比較(キャッシュあり・なし)
- wslcが本当に「軽い」と言える理由と、そうでない場面
- wslcへの移行を検討すべき人・Docker Desktop を使い続けるべき人
検証環境
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| PC | ASUS ROG Zephyrus G14(AMD Ryzen 9) |
| OS | Windows 11 |
| wslc バージョン | 2.9.3.0(プレビュー期のプレリリース版) |
| Docker Desktop | 最新版 |
| 計測ツール | PowerShell 7(Measure-Command / Get-Process) |
計測時(プレビュー期)は、WSLをプレリリース版に更新して利用していました。
wsl --update --pre-release
正式版(3.0.1以降)では --pre-release は不要で、wsl --update で更新できます。更新後、wslc または container.exe コマンドが使えるようになります。
wslcとDocker Desktopのアーキテクチャの違い
まず数値を見る前に、なぜメモリ消費に差が出るのかを押さえておきます。
Docker Desktop は、WSL2上に共有の仮想マシン(VM)を立ち上げ、その中でDocker Engineというデーモンプロセスを常時稼働させる仕組みです。コンテナを1つも動かしていない状態でも、このデーモンが常にメモリを消費し続けます。
一方、wslcはWSLの機能として動作し、Docker Desktopのようなアプリを別途必要としません。ただし、下の実測のとおりwslcもVM上で動作しメモリを消費するため、「メモリを一切使わない」わけではありません。
計測コマンド(再現方法)
以下のコマンドで実際に計測できます。
# アイドル時のメモリ確認(vmmemプロセスの一覧)
Get-Process -Name "vmmem*" | Select-Object Name, WorkingSet64 | ForEach-Object {
[PSCustomObject]@{
Name = $_.Name
MemoryMB = [math]::Round($_.WorkingSet64 / 1MB, 1)
}
}
# wslc でのコンテナ起動速度計測
Measure-Command { wslc run --rm hello-world } | Select-Object TotalSeconds
# Docker Desktop でのコンテナ起動速度計測
Measure-Command { docker run --rm hello-world } | Select-Object TotalSeconds
実測①:アイドル時のメモリ消費
コンテナを1つも起動していない状態で、wslcのみ起動している場合と、Docker Desktopを追加起動した後を比較しました。
| プロセス | wslcのみ | Docker Desktop追加後 | 差分 |
|---|---|---|---|
| vmmemWSL | 1,306.6 MB | 2,429.6 MB | +1,123.0 MB |
| vmmemwslc-cli | 1,716.3 MB | 1,896.5 MB | +180.2 MB |
| 合計 | 3,022.9 MB | 4,326.1 MB | +1,303.2 MB |
Docker Desktop を起動するだけで、コンテナを1つも動かさずに約1.3GBのメモリが追加消費されます。
8GB RAMの環境では、1.3GBという差はブラウザのタブ数やIDEの応答速度に体感として影響してくる数値です。16GB RAM以上の環境では影響は小さくなりますが、「使っていない間もコストを払い続ける」という点は変わりません。
この計測では、wslcのみの状態に比べてDocker Desktopを追加した状態の方がメモリ消費が大きくなりました。起動速度よりも、メモリ消費の差が主な違いとして表れています。
実測②:コンテナ起動速度(キャッシュあり)
イメージが既にキャッシュされている状態での起動速度を比較しました。
| コンテナ | wslc | Docker Desktop |
|---|---|---|
| hello-world | 0.83秒 | 0.65〜0.66秒 |
| ubuntu | 0.73〜0.74秒 | 0.79秒 |
コンテナによってどちらが速いかは逆転していますが、いずれも1秒未満で誤差レベルの差です。「起動速度」という観点ではほぼ同等と見てよいでしょう。
実測③:イメージ初回取得時間(キャッシュなし)
イメージをまだ持っていない状態からの pull 込みの起動時間も計測しました。
| コンテナ | wslc | Docker Desktop |
|---|---|---|
| hello-world | 未記録 | 4.50秒 |
| ubuntu | 9.77秒 | 11.46秒 |
ubuntu のイメージ取得では wslc がやや速い傾向が見られました。ただし、ネットワーク速度に左右されやすい計測なので、環境によって結果は異なる可能性があります。
総評:各観点での比較
| 観点 | wslc | Docker Desktop |
|---|---|---|
| アイドル時メモリ | 本計測ではDocker Desktop追加後より約1.3GB少ない | 追加で消費 |
| コンテナ起動速度 | ほぼ同等(誤差レベル) | ほぼ同等 |
| 構成 | WSLの機能として動作 | Docker Engine常駐 |
| 使わない時間のコスト | VMのメモリ消費あり(本計測で約3.0GB) | 追加でメモリ消費 |
| Docker Compose対応 | 非対応(2026年10月時点。wslc compose は開発中) | 対応 |
| GUI管理画面 | なし(CLI中心) | あり |
| ライセンス | 無料(WSL標準搭載) | 商用利用は有料プランあり |
| エコシステムの成熟度 | 2026年9月に正式版(GA)になったばかり | 成熟 |
wslcが向いている人・向いていない人
wslcへの移行を検討してよい人
- Docker Desktop のメモリ消費(vmmemプロセス)に日頃から不満を感じている
- 単体コンテナの実行や簡単な動作確認が主な用途
- 8GB RAM などリソースが限られた環境で開発している
- Docker Desktop のライセンス管理を簡略化したい
- AI・LLMワークロードなどGPUコンテナを効率よく動かしたい
Docker Desktop を使い続けた方がよい人
- Docker Compose を使ったマルチコンテナ構成を日常的に使っている
- GUI(Docker Desktopダッシュボード)でのコンテナ管理に慣れている
- Kubernetes連携やDocker Desktopの拡張機能を活用している
- 既存の開発フローをすぐに変えたくない(wslcは2026年9月に正式版になったばかり)
wslcのインストール・起動方法
wslc は2026年9月29日リリースのWSL 3.0.1(正式版)に含まれています。以下の手順で利用できます。
# WSLを最新版に更新(プレビュー期に必要だった --pre-release は不要)
wsl --update
# バージョン確認
wslc --version
# hello-worldコンテナを実行(動作確認)
wslc run --rm hello-world
Docker と同様のコマンド体系で操作できるため、既存のDocker知識がそのまま活かせます。
注意点
- wslc は2026年9月29日に正式版(GA)になりましたが、登場して間もない機能です。業務上クリティカルなワークフローへ適用する場合は、自社の要件に合うか事前に評価することをおすすめします。
- Docker Compose に相当するマルチコンテナのオーケストレーション機能は、2026年10月時点では搭載されていません。Microsoftは
wslc composeの対応を次の開発の中心に挙げています。 - 本記事の計測値はプレビュー期の2.9.3.0のもので、WSLの更新により結果が変わる可能性があります。
- wslcとDocker Desktopは共存できます。移行を急がず、並行して使いながら慣れることも一つの方法です。
よくある質問
wslcはDockerコマンドと同じように使えますか?
wslc run、wslc ps、wslc stop、wslc build など、Dockerに準拠したコマンド体系を採用しています。container.exe というエイリアスでも呼び出せます。ただし、docker-compose に相当する機能は2026年10月時点では搭載されていません。
Docker Desktop を完全にアンインストールしても大丈夫ですか?
Docker Compose を使ったマルチコンテナ開発を行っている場合は、現時点ではDocker Desktopを残した方が安全です。単体コンテナの実行だけであれば、wslcに置き換えることができます。
wslcはどの環境で使えますか?
WSL 3.0.1以降(プレビュー期は2.9.3以降のプレリリース版)が必要です。対応OS・CPUアーキテクチャの公式要件は、筆者が確認できていないため、Microsoftの公式ドキュメントでご確認ください。筆者の検証環境はWindows 11(AMD Ryzen 9搭載PC)です。
vmmemプロセスはwslcでも発生しますか?
発生します。wslcもVM上で動作するため、vmmemwslc-cli や vmmemWSL といったプロセスがメモリを消費します。本記事の計測では、wslcのみの状態で vmmemWSL と vmmemwslc-cli の合計が約3.0GBでした。
まとめ
実測データで確認した結果をまとめます。
- Docker Desktop を起動するだけで、コンテナ未起動の状態でも約1.3GBのメモリが追加消費される
- wslc とDocker Desktop のコンテナ起動速度は誤差レベルでほぼ同等
- 本計測では、メモリ消費の差が主な違いで、起動速度の差は小さい
- Docker Compose 非対応という制約があるため、移行は用途を見極めた上で判断する
Docker Desktop が重いと感じているWindowsエンジニアにとって、wslcは十分に検討価値のある選択肢です。まずは既存の Docker Desktop 環境と並行して試し、自分のワークフローに合うかどうかを確認してみることをおすすめします。
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